月夜見

   “落ち葉カサコソ”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 

藩主ネフェルタリ・コブラ様が治めるグランドジパングは、
やや温暖な地域にあるけれど、
地続きの他の藩とさして変わらぬ程度の差。
四つの季節が巡るところも同んなじで、
今はといえば、そろそろ綿入れを出さないとうっかり風邪を拾いかねぬと、
お母さんたちが長持ちのどこへ突っ込んだかを思い出しつつ、
今が旬の長い魚、サンマを七輪で焼いておいでだったりする、
どこもここもいい匂いがいっぱいな秋真っ盛り。

 「サンマはいいですねぇ。」
 「お、ブルックもサンマ好きか?」

療養所の濡れ縁に並んで腰かけ、
昼下がりのお茶なぞ味わっておいでの顔ぶれは。
顔布で鼻から下を覆っておいでの不思議なおじさんにして、
蘭方医学に結構通じておいでの臨時の看護役のブルックさんと。
ここに来ると、いやいやどこに居たって
気がつけば美味しいものの話になってしまう食いしん坊、
麦わらのルフィという目明しの親分さんと。

 「ブルックの場合、
  骨になる成分が多いからってのもあるんだろうけどな。」

勿論、皮をパリッパリに焼いたのは俺も大好きだぞと、
まんまるつぶらな目を細め、にっこり笑ったお顔も愛らしい、
トナカイのお医者見習、チョッパー先生の3人で。

 「そだな、サンマはよく焼いてあれば骨まで食えるからなvv」

およそ、これは食べられないという苦手なんてあるのだろうかという、
誰もが知る食いしん坊の親分さんだが、
ここで不意に左右を見回し、あとの二人へ訊いたのが、

 「ただな。あの苦い腹んトコだけはどうしても食えねくてよ。」

それは重大な機密扱いででもあるものか、
ずんとお顔もしかめると、こそこそっと囁いた親分だったのへ、

 「あ、俺もあすこはどうにも苦手で。」

チョッパーせんせえも小さな蹄をそろりと上げて、
同感だとやはり声をひそめて応じて見せて。

 そもそも、他の魚では取り除いてあるよな確か。
 だよなだよな、何であんな苦いとこ食えるんだ?
 サンジとか酒によく合うとか言っててよ。
 ホントか? あんな美味いお菓子作れるのにか?

自分たちにはちょいと苦手な辛いものや苦いもの。
何で食べられる奴がいるものか、
あれを美味いと思うなんてどんなやせ我慢かと
幸いにも見つけた同志とあって、
ここぞとばかりに不平不満を並べ立てるところが、

 “可愛らしいですねぇ。”

どちらもその道ではこれで立派に働いておいでの人物たちで。
まだまだ童顔が消えないままの赤い衣紋の親分さんは、
ご城下を騒がす盗人や人騙し、
見つけたら最後 絶対逃がしはしないと駆け出して。
執念と体力で追い回し、
ちょいとたたらを踏み外してはあちこち壊しつつも見事に生け捕り、
何度もお褒めの言葉をいただいておいでだし。
小さなトナカイのお医者様は、
外の藩から勉強しにやってきた見習いの身分ながら、
本せんせえと並ぶほど頼りにされてる名医でもあって。
喧嘩や暴力は苦手で、臆病そうに物陰へ逃げ込んだりするものの、
大怪我負った人が担ぎ込まれると、痛々しい傷口にも怖じず、
根気よく手当てにあたって看病も厭わない。
二人とも困っている人への情が厚く、
まだ幼いところが前に出てか、弱っている人にはなかなか通じにくいのだけれど。
一旦その温かい気心に触れたなら、

 “慕わずにはおれない、そりゃあ優しいお人達ですものねぇ。”

苦手な魚の話から、気がつけばお菓子の話へ迂回していた二人であり。
というのも、

 「俺の故郷では、
  この時期におっかない仮装をして魔物を追い払う祭りがあってな。」

そこで子供たちにはお菓子がふるまわれるんだと、
チョッパーが嬉しそうに自慢をし、

 「お菓子がもらえんのか?」
 「おお。近所の家を回って、
  魔物の恰好で悪戯するぞっておどかせば、
  これで堪忍してってお菓子がもらえるんだ。」

地蔵盆みたいだなとルフィが笑い、
あ、そうだな似てるなと、チョッパーがつられて笑う。
至って無邪気な二人だが、
ルフィの方はたった一人の家族の兄が武者修行の旅に出ていて、
長屋では随分と長いこと1人で暮らしているというし。
チョッパーの方は方で、
故郷で待つのは育ての親の女医さん一人。
悪魔の実なんてほとんどの住人が知らないような田舎の里で、
トナカイなのに人の言葉が判り、二本足で立ってるなんて気味悪いと、
随分と長いこと、大人たちから冷遇されていたらしく。
どちらも自分から語ってくれたわけではなくて、
ここでの保護者やずんと親しい人らが、彼らを案じたうえでこぼした欠片。

 “それを聞かせてもらえるほどには、
  わたしも信用を得たってことかなぁ”

なんて、
手捻りで味のある大きめの湯のみを手に、
何とはなく感慨深げになっておれば、

 「ブルックの里では秋っていうと何かあるのか?」
 「え?ええ? えっとですねぇ。」

そんな急に言われても、と。
目玉のない目をまん丸くしてから、

 「あ、そうそう。秋と言えばビールの祭りがあります。」
 「びーる?」
 「あ、知ってるぞ、泡の出る麦のお酒だ。」

収穫のお祭りがあって、そこでビールっていうお酒をみんなでワイワイ飲むんだなと、
チョッパーのいた里でも似たような祭りがあったのか、
ルフィに判るようにかみ砕いてやり、

 「そういや、ブルックは大人だよなぁ。」

そんな訊き方をするトナカイさんで。
何ですよ今更と、小首を傾げる骸骨さんへ、

 「うん。だったらお酒飲む機会もあったんだろ?」
 「はい。今でも大せんせえと時々晩酌してますよ?」

えー。俺知らなかったぞ、じゃあなくて。

 「ブルックって酔ったらどこか赤くなるのか?」

 はい?

 「あ。俺もそれ知りたい。」

 ははははい?

だってさ、骨の身だけど、いつだったか慌てて青くなってたことあったじゃないか。
そうそう俺も見たぞと、幼いお二人に詰め寄られ、
大人のブルックさんがどう答えたかは…瓦屋根の上、モズの子だけが聞いていた。






     〜Fine〜  15.10.24.



 *美味しいものがいっぱい旬になる秋、収穫の秋。
  グランドジパングでもいろいろお祭りとかあるのかもですね。
  落ち葉焚いてお芋焼いたり、
  保存食用のかきもち吊るしたり…は、年が明けてからかな?


感想はこちらvv めるふぉvv

 感想はこちらvv

戻る